「1899」、実写とバーチャルプロダクションをブレンド

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「1899」、実写とバーチャルプロダクションをブレンド

Netflixの多数のジャンルを超えた多言語によるヒットシリーズ「1899」は、スリルとミステリーに満ちた物語で視聴者を引き込んでいる。「1899」は、テレビドラマとしての限界を超えた作品であると同時に、映像制作の技術も駆使している。

一見すると単なる時代物の同作は、穏やかな19世紀の大西洋航路の旅客船を舞台としているが、その静寂なうわべはすぐに一変し、心霊現象や悪夢のような経験が次々と起こり、乗客たちそして視聴者を謎が謎を呼ぶ恐怖の世界に引き込んでいくヒット作。

「ダーク」のクリエイターであるヤンジェ・フリーシェ(Jantje Friese)とバラン・ボー・オダー(Baran Bo Odar)の両氏による同作は、高いプロダクションバリュー、壮麗な時代物のセットと衣装、優れた撮影技術、素晴らしい演技、息を呑むVFXも見ものだ。多くのクリエイティブ面で「ダーク」と同じスタッフが本作にも関わっていることが、この成功の大きな要因の一つになっている。

ニコラウス・スメラー(Nikolaus Summerer)氏がいつも通りの高水準の撮影を行い、カラーグレーディングおよびサウンドのポストプロダクションは、Basis Berlinにてカラリストのステフェン・パウル(Steffen Paul)氏がUltra HDのHDRグレーディングをDaVinci Resolveで行った。両氏共に、以前に「ダーク」およびフリーシェ氏とオダー氏が手がけた過去の作品で同様の役割を担っている。

バーチャルプロダクション

本作の独自の物語展開のニーズを満たすために「Volume」と呼ばれる巨大な270度の円形LEDウォールが、360度回転する舞台を囲むようにして設置された。

このバーチャルプロダクション環境により、LEDにCGと事前に撮影した映像をリアルタイムで背景として映し出して、カメラビューにモーショントラッキングし、舞台上のライブアクションとミックスすることができる。

しかし、斬新なインカメラを用いた手法だけでは、ポストプロダクションを完了させることは当然ながらできず、多数のVFXが必要であり、またカラーグレーディングとフィニッシングもこれまで以上に欠かせない要素となっている。

「バーチャルプロダクションでは、イメージの大部分が撮影開始の遥か前に作成されます。VFXから始め、撮影は最後になります」とステフェン・パウル氏は語る。

「1899」、実写とバーチャルプロダクションをブレンド

同氏はプリプロダクションとテスト段階から同作に関わり、カラーグレーディングにおいて基準となるルック、番組で使用するLUTを作成し、制作の際にモニターやデイリーに適用した。

「制作を通して1つのLUTで済んで欲しいと願っていました」と同氏は説明する。「異なるVFX制作の委託先と編集室をつなぐパイプラインをセットアップしている際に、特にこれは重要です。多くの情報を管理する必要があるので、このセットアップにおいて、番組のLUTも変化する可能性が無いようにしたかったんです。」

パイプラインには、変化に対応できる余裕を持たせたという。「撮影初日にメインのルックは固定されました。しかし、シーンのマッチングと露出補正、シーンに適したムードを割り出すことも同様に重要です」と同氏。「ミュンヘンのPanoptimoのデイリー部門は素晴らしく、セットでの初期段階における指摘などに対応してくれました。」

映像が確定すると、Basis BerlinがDaVinci Resolveでコンフォームの作業を本格的に始めた。

「Resolveのオンラインおよび編集機能は、これまでに大幅に改善されたので他のシステムで行う理由はありませんでした」と同氏は語る。「カラー変換にはCDLを用いてコンフォームしました。また、ACESカラーマネージメントと番組のLUTを使用して、デジタルインターミディエイトにおけるグレーディングの開始点を作成しました。」

バーチャルプロダクションは、従来通りに撮影されたシーンと比べてデジタルインターミディエイトにより多くの時間を費やす必要があると同氏は感じている。物理的なセットと、自然現象の効果やバーチャルの背景をブレンドさせる作業は、特に複雑な作業だという。

「Volumeでは、前景と後景を上手くブレンドさせる方法を常に模索することになります」と同氏は続ける。「これら2つを分ける要素の一つが、シャープさです。LEDウォールは多くの場合、ソフト過ぎて見えます。おそらく、このようなパネルの実際の解像度に限度があることが原因でしょう。Resolveのカラーページのシャープニングツール、特にテクスチャーポップが、こういった状況に対処する上で役立ちました。テクスチャーポップは、他に影響を与えずに特定の周波数だけをシャープにできます。」

コントラストとカラーをコントロールできることも同様に重要視された。

「照明を使用している場合、Volumeはその光の多くを反射しがちです。これにより、黒がくすみ、浮いて見えます。特に、前景の黒が良いシーンでは目立ちます」と同氏は説明する。「RGB LEDから発せられる光のスペクトルは断続的で、スキントーンが含まれるオレンジの部分が弱いんです。」

「1899」、実写とバーチャルプロダクションをブレンド

同氏はDaVinci Color Transform Language(DCTL)を使用して、変換をカスタマイズしている。

「色をいかに扱うことができるかを試すことができる優れた方法です」と同氏は説明する。「これらは、Volumeのコントラストを調整する必要があるけれど、従来の方法で背景を分離できない状況で役立ちました。特定のカラーの領域、大抵ブルーのみのコントラストを変更できるので、希望通りの結果が得られます。」

「船内のシーンの一部は客室内のショットなのですが、途中で海が見えた方が良いという話になりました」と同氏は続ける。「必然的に、そういったショットは背景なしでスタジオで撮影しました。マッチムーブを何度も使用して、遠くに僅かに見える水平線を作成しました。このような作業は、DaVinci Resolve 18に搭載されたサーフェストラッカーを使用すれば、さらにシンプルに実行できるでしょう。」

DaVinci Resolve Studioに搭載されたフリッカーの追加プラグインも役立ったと同氏は語る。「このプラグインが無ければ、本当に大変なことになっていたでしょう。炎、ランプ、人々が見つめるチラつくモニター、信号拳銃など、登場人物の顔に光が反射するショットが沢山あったので、この機能には助けられました。」

一部のショットは、作業が楽しくて仕方なかったと同氏は語る。「船の下甲板でのシーンが気に入っています。美術のウド・クラマー(Udo Kramer)は、本当に素晴らしい仕事をしたと思います」と同氏は続ける。「シーンの中には非常に長い時間を費やす必要があるものもあります。その際には、多くの場合、VFX部門の協力を得ることになります。

ミステリーのマスタリング

「1899」は、Netflixの仕様要件に従い、各話で1つのIMFで、Dolby VisionメタデータおよびDolby Atmosミックスを含めて、Ultra HDで最終的な書き出しが行われた。

「グレーディングのタイムラインから、ACESでデジタルソースマスターを品質管理とマスタリング用にレンダリングしました」と同氏。「マスタリングの担当部門は、最終的なIMFとその他のファイルのエンコードにColorfront Transkoderを使用しています。グレーディングと書き出しを切り離して作業できるのは良いですね。グレーディングのタイムラインに影響を与えずに、いつでも仮のファイルを書き出して送ることができます。」

多数の部門のスタッフが関わることで、類まれなる作品を生み出すことに成功したと同氏は感じているという。「視覚的な類似要素を『ダーク』のファンたちは間違えなく見つけ出すでしょう。また、カラーも似た方法で扱っています」と同氏。「しかし、今回は一歩踏み込む努力をしました。ルックに基づいて、特定のジャンルに分類されることはよくあり、本作ではそれを避けたかったんです。本作は、時代物のドラマから暗いスリラーになり、そしてSFへとスタイルが変わっていきます。それら全てのジャンルをルックが包括する必要があったので、時代を感じさせながらもモダンさもあるルックにしたいと考えました。ミステリーとサスペンスが好きなので、視聴者の方たちが予測されるように、全てがとても暗いです。」

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